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複素関数f (z ) = (z 2 − 1)(z − 2 − i )2 /(z 2 +2+2i )のグラフ。色相 は偏角 を表し、明度 (このグラフでは周期的に変化させている)は絶対値 を表す。
数学 の一分野である複素解析 (ふくそかいせき、英 : complex analysis )は、複素数 上で定義された関数 の微分法 、積分法 、変分法 、微分方程式 論、積分方程式 論などの総称であり[ 1] 、関数論 とも呼ばれる[ 2] [ 3] [ 4] 。初等教育以降で扱う実解析 に対比して複素解析というが、現代数学の基礎が複素数 であることから、単に解析といえば複素解析を意味することもある。複素解析の手法は、応用数学 を含む数学 全般、(流体力学 などの)理論物理学 、(数値解析 [ 5] [ 6] や回路 理論[ 7] をはじめとした)工学 などの多くの分野で用いられている。
歴史
複素解析の理論に貢献した先人
複素解析は最も古くからある数学 の分野の一つであり、その起源は18世紀 あるいはそれより以前にまでたどることができる。レオンハルト・オイラー 、カール・フリードリッヒ・ガウス 、ベルンハルト・リーマン 、オーギュスタン=ルイ・コーシー 、ヨースタ・ミッタク=レフラー 、ワイエルシュトラス といった数学者や他の多くの20世紀 の数学者たちが複素解析の理論に貢献している[ 1] [ 5] [ 6] [ 8] 。
複素解析の応用
歴史的に複素解析、特に等角写像 の理論は工学 ・地図学 ・物理学 に多くの応用があるが[ 6] [ 8] [ 9] 、解析的整数論 全般にわたっても応用されている[ 10] 。近年は複素力学系 の勃興や正則関数 の繰り返しによって与えられるフラクタル図形 (有名な例としてマンデルブロ集合 が挙げられる)の研究などによって有名になっている[ 11] 。
他の重要な応用として共形変換 に対して作用 が不変な場の量子論 である共形場理論 が挙げられる。また電気工学 におけるフェーザ表示 、固体力学 における応力関数 、流体力学 における複素速度ポテンシャル [ 12] など、工学の様々な分野にも応用されている。
複素関数
複素関数 とは、自由変数 と従属変数 がともに複素数 の範囲で与えられるような関数 である[ 1] [ 8] 。より正確に言えば複素平面 の部分集合 上で定義された複素数値の関数が複素関数と呼ばれる。複素関数に対し自由変数や従属変数を実部と虚部とに分けて考えることができる。
z
=
x
+
i
y
,
w
=
f
(
z
)
=
u
(
x
,
y
)
+
i
v
(
x
,
y
)
,
{\displaystyle z=x+iy,\,w=f(z)=u(x,y)+iv(x,y),}
ここで
x
,
y
,
u
(
x
,
y
)
,
v
(
x
,
y
)
∈ ∈ -->
R
.
{\displaystyle x,y,u(x,y),v(x,y)\in \mathbb {R} .}
従って複素関数の成分
u
=
u
(
x
,
y
)
,
{\displaystyle u=u(x,y),}
v
=
v
(
x
,
y
)
{\displaystyle v=v(x,y)}
は、2つの実 変数 x , y についての実数値関数 だと考えることができる。複素解析の基本的な概念は、指数関数 、対数関数 、三角関数 などの実関数を複素関数に拡張することにより与えられることが多い。
正則関数
正則関数 とは、複素平面 のある領域 D で定義され、定義域 の全体で複素微分可能 、つまり任意の a ∈ D に対し極限
f
′
(
z
)
=
d
f
d
z
=
lim
z
→ → -->
a
f
(
z
)
− − -->
f
(
a
)
z
− − -->
a
{\displaystyle f'(z)={\frac {\mathrm {d} f}{\mathrm {d} z}}=\lim _{z\to a}{\frac {f(z)-f(a)}{z-a}}}
が定まる複素関数 f (z ) をいう[ 1] [ 8] 。
複素関数については複素微分可能 であることと解析的 であること、つまり
∑ ∑ -->
n
=
0
∞ ∞ -->
c
n
(
z
− − -->
a
)
n
=
c
0
+
c
1
(
z
− − -->
a
)
1
+
c
2
(
z
− − -->
a
)
2
+
⋯ ⋯ -->
{\displaystyle \sum _{n=0}^{\infty }c_{n}\left(z-a\right)^{n}=c_{0}+c_{1}(z-a)^{1}+c_{2}(z-a)^{2}+\cdots }
が定まり、
a から一定の距離(収束半径 )の範囲でこの級数が収束して、
収束値が関数値 f (z ) に一致すること
が同値 である[ 13] 。そのため、複素解析においては正則関数 (holomorphic function) 、複素微分可能関数 (complex differentiable function) 、解析関数 (analytic function) という用語は同義になる。複素関数が複素微分可能でない点を特異点 (singularity) という。
特異点の分類
複素解析は解析的な領域 を主として探求する分野であるが、複素関数に特異点 がある場合、特異点を含む領域全体における大局的な挙動は特異点に支配される。したがって、特異点の位置や性質を研究することは複素解析の範疇に含まれる。
特異点には孤立した ものと孤立しない ものとがあるが、複素解析の対象となるのは主に孤立した特異点である。
孤立特異点
孤立特異点 は、可除特異点 、極 、真性特異点 に分類される。除去可能な特異点とは、その点における値を適当に取り直すことにより、複素函数をその近傍で解析的にすることができるときに言う。極とは、複素函数 f (z ) の特異点 z = a であって、(z − a )n f (z ) において除去可能な特異点となる自然数 n が存在するものをいう。真性特異点 とは、除去可能でも極でもない孤立特異点 をいう[ 1] 。
非孤立特異点
非孤立特異点は、特異点が稠密 に連なっているために、その近傍 に必ず他の特異点を含んでしまう特異点をいう。例えば f (z ) = 1/sin(1/z ) は z = 0 に非孤立特異点を持つ(z = ±1/nπ は 0 以外の、孤立していない真性特異点 、ただし n は任意の自然数 )。この他に、定義域の自然な境界(解析接続 によって越えられない壁)や多価関数 を一価関数として扱うために導入する分岐切断 (branch cut)[ 1] も一種の特異点と考えられる。分岐切断の端点を分岐点 (branch point) というが、分岐切断があるかぎり、分岐点は孤立した特異点になりえない。しかし、分岐切断は(分岐点を固定してホモトープ である限り)どこに置いてもよいものであるから都合に合わせて分岐切断を動かせば、分岐点をあたかも孤立した特異点であるかのように扱える。この発想はリーマン面 [ 1] [ 8] に通ずる。分岐点は代数分岐点 と対数分岐点 に分類されるが、代数特異点、対数特異点[ 14] と呼ばれることもある。
複素関数の分類
複素関数が微分可能であるということは、実関数が微分可能であるということに比べて遥かに強い条件である。一階微分可能な複素関数は無限階微分可能であり[ 15] 、積分可能であり、解析的である。定義域(もしくは考察の対象となっている領域)の全体で正則な関数を正則関数 といい[ 1] [ 8] 、特に複素平面全体を定義域とする正則関数 を整関数 という[ 1] [ 8] 。孤立した極 を除いて正則な関数を有理型関数 という[ 1] [ 8] 。指数関数、正弦関数、余弦関数、多項式 関数など、多くの初等関数は整関数 であるが[ 1] 、正接関数(
tan
{\displaystyle \tan }
)などは極を持つから有理型であり、対数 関数は負の実軸に分岐 を持ち正則でない[ 1] [ 8] 。ガンマ関数 は負の整数に極を持つから有理型であるが、右半平面に限れば正則である[ 1] [ 16] [ 17] 。
著しい特徴
複素線積分
複素解析においてよく用いられる道具立てに複素線積分 がある。コーシーの積分定理 によって、閉じた経路で囲まれた領域の内側全体で正則になっている関数を、その経路上線積分した値はかならず 0 になるということがわかる[ 1] [ 5] [ 8] [ 11] [ 13] 。もし正則関数 が特定の点を極 にしているとき、つまりそこで関数の値が「爆発」し有限の値をとらないときには、その点での関数の留数 を求めることで線積分の値を決定できる。各複素数における正則関数 の値は、その点のまわりの円周 上での(考えている正則関数 に応じて構成される有理型関数の)線積分の値として求めることができる(コーシーの積分公式 [ 1] [ 5] [ 8] [ 11] [ 13] )。また、正則関数 の線積分に関する留数 の理論を用いることで複雑な実積分の値を決定することもできるようになる[ 1] [ 5] [ 8] [ 11] [ 13] 。
カゾラーティ・ワイエルシュトラスの定理
カゾラーティ・ワイエルシュトラスの定理 によって真性特異点 のまわりでの正則関数 の挙動に関する驚くべき性質が導かれる。特異点のまわりでの関数の挙動はテイラー級数 に類似のローラン級数 によって記述される。
リウヴィルの定理
リウヴィルの定理 によって複素平面全体で有界な正則関数 は定数関数に限られることがわかるが[ 1] [ 8] 、これをもちいて複素数体が代数的閉体 であるという代数学の基本定理 の自然で簡単な証明が与えられる。
解析接続
正則関数 の重要な性質に、正則関数 の連結 な領域上全体での挙動が任意のより小さい領域上の挙動によって決定されてしまう(一致の定理 [ 1] )、というものがある。大きい領域全体でのもとの関数は小さい領域上に制限して考えたものの解析接続 とよばれる[ 1] [ 8] 。このような原理によってリーマンゼータ関数 など、限られた領域上でしか収束しない級数 によって定義されていた関数を複素平面全体に正則関数 や有理型関数 として拡張することが可能になる[ 11] [ 18] 。場合によっては自然対数 などのように複素平面内の単連結 でない領域への解析接続 が不可能なこともあるが、リーマン面 とよばれる曲面を導入することでその上の正則関数 としての「解析接続 」を考えることができる[ 1] [ 8] [ 11] [ 19] [ 20] [ 21] [ 22] 。
多変数複素解析
上記の結果はすべて一変数に関する複素解析のものであるが、多変数複素解析 に関しても豊かな理論が存在し[ 23] [ 24] [ 25] [ 26] [ 27] [ 28] 、べき級数展開などの解析的な性質が成立している。一方で共形性 などの一変数正則関数が持つ幾何学 的な性質は拡張されず、リーマンの写像定理 [ 8] が示すような複素平面の領域に関する共形関係性などの複素一変数の理論では成立する重要な性質が複素二変数以上の理論ではもはや成立しない。
脚注
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数値解析と複素解析の関係を解説する文献
流体力学との関係を解説する文献
関連項目
定理
方程式
関連分野
特殊関数
積分
複素解析の研究者
海外
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